2. アポトーシス研究を支えた実験法
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アポトーシス研究は多岐にわたる研究分野の集大成として進歩してきた経緯がある
他の分野でも頻繁に用いられる実験法が有効に利用されてきた
1. 電子顕微鏡と光学顕微鏡による形態学的解析
それゆえ、形態学的解析はアポトーシス研究の重要な研究法の一つ
初期のアポトーシス研究は電子顕微鏡観察をメインに進められてきた
しかし、試料作製に熟練が必要、設備が高価→簡便に観察するための様々な方法が考案されてきた
アポトーシスにおける最も顕著な特徴は染色体の凝縮と断片化
特にヘキストは細胞膜を自由に透過するため、生細胞を染色でき、固定処理を省略できるので最も簡便 https://gyazo.com/80626b1df14f379203487d877bff1c32
アポトーシスのメカニズムが徐々に明らかにされていくにつれて、それを利用した染色法が考案された
染色体DNAの切断によって精製したDNA切断末端を標識する
固定した組織切片などを用いても問題なくアポトーシス細胞を特異的に染色することが可能であるため、培養細胞系のみならず、個体内でのアポトーシス細胞の観察には、非常に有用な方法
アポトーシスにより細胞表面にホスファチジルセリンが露出することが明らかにされた→ホスファチジルセリンに結合するタンパク質、アネキシンVにより細胞表面のホスファチジルセリンを染色する TUNEL方もアネキシン線sy雲、容易に蛍光標識することが可能であるため、顕微鏡観察だけでなく、FACS(フローサイトメトリー)解析にも有効な手段であり、アポトーシス研究の推進に非常に貢献した 2. DNAラダー検出法によるアポトーシスの検出
染色体DNAの断片化がアポトーシス時に核に生じる特徴的な変化の一つと認識されるようになった
核の形態変化のメカニズムは長らく解明されなかったが、1980年にWyllieらによってアポトーシスにおけるエンドヌクレアーゼの活性化が示されたことによる 一方、ネクローシスではこの断片化は一部の例を除いてほとんど検出されない 染色体断片化の検出
アポトーシス時に生じる200~300 kbと30~50 kbの大きな染色体断片化(1993)の検出には、パルスフィールド電気泳動法を用いる必要があるため、あまり簡便ではない アポトーシスの生化学的な指標の一つとして頻繁に用いられてきた
DNAラダーの検出には、低分子量のDNAを抽出する方法と細胞の全DNAを抽出する方法があるが、どちらの場合も同様の結果が得られる
CADの欠損や、CADの阻害因子であるICADの過剰発現によって、ほとんどのDNA断片化が抑制されるため 3. Cell free系で数多くの重要な因子が発見された
多くの研究分野において非常にパワフルな実験方法
シグナル伝達研究では、ある経路にかかわるタンパク質を同定し、試験管内でその酵素活性、調節機構、基質などを解析することによって、細胞内での機能を推定する手法が古くから現在に至るまで広く用いられている
アポトーシス研究でも同様の手法が利用されてきたが、特に細胞内小器官(オルガネラ)を持ち込んだCell free系はアポトーシス研究を協力に推進した 3-1. 細胞抽出液を用いた実験系
細胞抽出液からある特性を指標にしてタンパク質を精製する手法 アポトーシス研究においても非常に有用な方法だった
アポトーシスに関与する様々な因子が細胞抽出液を用いた実験系を用いて同定された
この手法が特に成功を収めたのは、1996年から1997年にかけてWangらのグループによって行われた一連の実験 彼らは正常細胞の抽出液をそのまま放置しておくと、caspase-3の活性が上昇することを見出した この系と後述する単離核を用いた実験系を組み合わせてcaspase-3活性化因子の生化学的精製を試みた この実験は、ミトコンドリアに集約したアポトーシスシグナルがいかにしてカスパーゼのシグナルに転換されるかを示し、アポトーシスシグナル伝達の根幹を明らかにしたという点で特筆すべき実験 3-2. 単離核を用いた実験系
1993年にLazebnikは、単離核に増殖中の細胞から得られた細胞抽出液を加えることにより、アポトーシスの生化学的指標の一つとして用いられてきたオリゴヌクレオソーム単位での染色体DNA切断によるDNAラダー形成を誘導することに成功した https://gyazo.com/cb9de643dc1a8ea193c6990a5edb5467
1997年、江成らは、無刺激の細胞抽出液から、caspase-3に依存して、単離核にDNAラダー形成を誘導する因子、CADの精製、およびクローニングに成功した 3-3. 単離ミトコンドリアを用いた実験系
アポトーシス誘導メカニズムへのミトコンドリアの関与は、1996年から1997年に発表されたいくつかの論文により示唆された アポトーシス時にミトコンドリアの膜電位が消失すること ミトコンドリアに直接傷害を与えることによって誘導される細胞死をミトコンドリアタンパク質であるBcl-2が抑制していたことなど ミトコンドリア周辺で起こっている現象を細胞レベル、あるいは個体レベルで解析するのには限界があったので、それまで心筋や肝臓の研究分野で培われてきた単離ミトコンドリアを用いた実験系を応用して、アポトーシス誘導時に起こっている現象を解析する手法が取り入れられた https://gyazo.com/19a3da68662be02cbb1c78769430f2a6
この機能がBcl-2ファミリーのアポトーシス制御機構の本体であることが示唆された
4. タンパク質相互作用検出法
タンパク質同士の相互作用を介して直接情報伝達するシグナル伝達メカニズムがある
相互作用の結果、受け手となる因子のリン酸化、脱リン酸化などの化学修飾を伴う場合や、切断を伴う場合のほか、相互作用によって受け手となる因子の構造変化を誘引する場合もある 酵素反応を伴う場合は、酵素と基質の複合体を直接検出することはしばしば困難を伴うが、それ以外の場合は、形成された複合体を同定することにより、シグナルの流れを解析することが可能 どちらの方法も既知の2つ以上の因子の相互作用を検出する場合にも、既知の因子に相互作用する未知の因子をスクリーニングする場合にも有効な方法
4-1. 免疫沈降法
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抗原タンパク質と相互作用するタンパク質が存在する場合、そのタンパク質も複合体の一部として沈殿してくる(共沈殿) このタンパク質をウエスタンブロット法などで検出することにより、複合体形成反応を解析することが可能となる また、共沈殿物を電気泳動法などにより分離し、そのアミノ酸配列を決定することにより、目的のタンパク質に結合する未知のタンパク質を同定することが可能 免疫沈降法は、2つあるいはそれ以上のタンパク質が複合体を形成していることを証明するために、アポトーシス研究だけでなくあらゆる局面で利用されている
特にアポトーシスのシグナル伝達系では、基質の化学修飾や、切断を伴わず、複合体形成によって下流にシグナルを伝えるステップがかなり多いことも、この手法が重要な知見に貢献した理由
免疫沈降法を利用して単離された新規遺伝子も多く存在するが、その中でも特にアポトーシス研究に大きな影響を与えた例としては、Bcl-2に結合する因子として同定されたbaxのクローニングが挙げられる 4-2. two-hybrid法
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目的のタンパク質に相互作用する未知のタンパク質を分子生物学的にスクリーニングする方法としてtwo-hybrid法は非常に有効な手段 two-hybrid法として様々な変法が考案されているが基本的には2つの因子が結合することによって、転写の活性化や酵素活性の変化など、細胞内で新しい活性を発揮するようデザインされている 通常スクリーニングに用いられる系は、特異的DNA結合タンパク質と転写因子のそれぞれに目的のタンパク質を融合させたものを酵母内で発現させ、2つのタンパク質の結合を転写の活性化を指標にして検出する方法 アポトーシスのシグナル伝達系では複合体形成によって下流にシグナルを伝えるステップがかなり多いため、two-hybrid法は非常に有用な手法であった
様々な因子の複合体形成がtwo-hybrid法により発見された
5. データベース解析によるアポトーシス関連遺伝子の探索
アポトーシスに関与する因子の中には、アミノ酸配列に類似性をもつ遺伝子ファミリーを形成するものが少なくない 現在はゲノムプロジェクトが完了したので、公開されているデータベースを用いて、誰もがアミノ酸配列に類似性をもつ遺伝子群を検索することが可能になった
アポトーシス研究の歴史においては、まだ一部の配列だけが公開されていたデータベースを用いたり、公開されていないプライベートのデータベースを用いたりして、多くの研究者がアポトーシスに関与する遺伝子の探索に挑戦した
多くのものはアポトーシスに関与する遺伝子であったが、アポトーシス以外の系に関与するものもいくつか単離された
この方法では、部分的な配列の類似性を指標にすることが多いため、タンパク質内の機能ドメインの一部だけを共有しているものなども単離されている
したがって、このような解析は、アポトーシス研究分野だけでなく、それ以外の分野にも大きく貢献したといえる
タンパク質の立体構造が決定された後、立体構造データベースを用いてよく似た構造をもつ分子を検索することは、そのタンパク質の機能を推定する上で貴重な情報になる場合がある